庶民の「豊かさ」と「生活力」

ドイツに来て2年、いろんな人に会いました。その中で感じたことは、決して金持ちでは無い庶民の生活が、とても「豊か」であるということです。

私が去年までドレスデンで住んでいた家はWohngemeinschaft(WGと略します)という、ルームシェアの物件でした。私のところは5人で住んでたんですけど、個々人は個室だけあって、トイレ・風呂・キッチンは共同というものです。WGはドイツ(特に東ドイツ?)ではとても典型的な都市住居の方法で、20代〜30代前半の若い人の多くがWGに住んでいます。私の住んでいたWGをオーガナイズしてる人は45歳くらいのおじさんなんですが、彼は大変に面倒見の良い人で、他のメンバーを気にかけたり、家中掃除したり工事したりと毎日忙しくしています。地下室に自分専用の工房を持っていて、家具やら物やらいろいろと作ってます。今はオリジナルチェスを作るのに躍起のようです。あと彼はやたらと近所に沢山友達がいて、週末には仲間と中庭や工房でパーティーをしたり、自転車で森を走り回ったりしています。あとの時間は、玄関先に自分で造ったデッキで、ワインを飲みながらのんびりとくつろいでます。彼は、元ヒッピーです。若い時は住めるように改造したバンでドイツ中を旅して回っていたそうです。

そんな事もあり、彼は昔から特に定職についてません。生活費をどう捻出しているのか、謎なことが多いのですが、どうも友達の家の改装を手伝ったり、W.G.の予算から清掃・工事代として多少収入を得ているようです。あとの収入源は、今日本で話題の、政府からの生活支援です。定職につくと今の生活が時間的にできなくなってしまうので嫌みたいですが、職を探していないと生活支援が受けられなくなってしまうので、時々訓練学校とかに通っていたりします。なので彼は役所と折衝することが多いらしく、私がビザの件でちょっとトラブルがあった時も、いろいろとワザを駆使して、手伝ってくれました。

彼を見ていると、彼はもちろん決してお金持ちでは無いんですが、豊かな生活をしてるなーと思うのです。友達がたくさんいて、自分で好きな物をつくり、人生を楽しんでいるように見えるのです。自分のペースで、自分の方法で、自分の人生を歩んでいるなぁという感じがあります。ドレスデンのノイシュタットという地域は、彼のような(元)ヒッピーや、パンクス、アナーキスト、アーティスト、環境志向の人、学生と若い研究職の人などが多く住んでいて、彼らがこの街の自由で独特な雰囲気を作っているようです。

今、日本では生活保護の問題で色々ともめていますが、私は不正受給の問題より、人々の価値観の問題が大きいと思うのです。日本だとどうしても豊か=金・物・サービスとなってしまいがちで、そういう価値観が金持ちだけでなく庶民にまで蔓延していることが、不幸の原因だと思うのです。たとえば、日本で生活保護受けたいという人が「子どもをディズニーランドにもつれていってやれない」って言ってたことに対して「贅沢言うな!」とネットが吹き上がっていたみたいですが、「ディズニーランドに行かないと幸福になれない」という感覚がそもそもまずい。いやね、ディズニーランド好きでもいいんですよ、私もすごい空間だなぁと思いますし、すごいサービスのクオリティですしね。でも他にも楽しいこと、自分で探して見ませんか?ということです。自分でなにか作るっていうのはそういう時とても良い。大概買うよりお金もかからないし、なにより自分の生活が豊かになります。畑仕事とか、DIYとか、成果が自分の生活に返って来ます。「ディズニー?あんなとこで一日人ごみにまみれて散財するくらいなら、近所で野菜作ってたほうが楽しいわよ」っていう人が増えると、日本もいろいろ変わると思うんですよね。

ちょっと大きい話にすると、そういう人々の「生活力」が、自治とかまちづくりに自然に繋がるんじゃないかと感じています。自分達の事は自分達でする、というのはものすごく基本的な自治の考え方だと思うんですが、いままで行政に任せて文句だけ言ってた状態から自分らでやるようになることで、問題もダイレクトに見えてくるし、あと自分たちで決めたり何か作ったりするのっては面倒くさそうだけど、実はとても楽しいんですよね。(その意味では、まちづくりはそもそも自治なわけで、行政のまちづくり課の人がワークショップを当たり障り無いような結論に持っていくように影で仕切ってる状態って本当は本末転倒というか、すごくおかしいんですよね。これは行政の責任と言うよりも、日本社会の問題だと思いますが)

そういう感じの問題意識をもちつつ、これからブログでちょいちょい私の住んでいる地域で起こっている様々なまちづくり・空間再生・自治の取り組みについて書いていこうと思います。(宣言しないとやらなくなるので宣言します!)私は今ライプツィヒ「日本の家」という空き家再生プロジェクトをやってるんですが、まずはこの活動を通じて考えたことや、出会った様々な人やプロジェクトを紹介していこうと思います。

※日本の家ではライプツィヒ空き家再生ワークショップ ―都市の「間」というワークショップを企画中です。こちらのブログにてライプツィヒの様々なまちづくり、空き家・空き地再生、自治のプロジェクトについて紹介していきます。ご興味のある方はぜひチェックしてみてください!



WGメンバーデッキで夕食中


キッチン


秋の外観

Photos by Tomoko Katsumata